INABA/SALAS Never Goodbye Only Helloツアー千秋楽、横浜BUNTAI公演。

桜も咲き始めた春の横浜で行われた、あの穏やかな祝祭の日をパッケージにしたい、その想いだけで一度、2,000文字ほどぽちぽちと文字を打ち終えてたんですけれども、ちょっと書くのをやめてみる。
時々起こるんですが、すごく打った文章が陳腐に見える。「すごく楽しかった!」の一文の方がよほど的を射た感想のような気がしてくる。
そんなわけで、レポを期待していただいてるみなさんにどう映るのかはわからないんですが、今回は少し書き方を変えてお送りしてみます。ちょっとおセンチ(昭和なつかし用語)なのか、いささか感傷的であります。たのしかったお祭りのあとは、決まってさびしいんです。
INABAは汗だくになりながら踊り歌った結果「おおきな犬かな?」くらいに髪がぶわわと膨らんで乱れ、SALASはギターのネックを上げながら翻ったその刹那、オーラスのいっちゃん良いところを前にギターストラップが取れ、Samは指でクラップするクールさと、客席へハートマークを投げ返す余裕を見せつけ、Armandは自分の白いサングラスを唐突にスタッフの方の顔にかけ、Mattは最後の最後に客席に「ヨコハマー!」と煽る興奮っぷり…どうだろうか、わちゃわちゃしている感じが伝わっただろうか。
これが最終日のINABA/SALASだった。
「始まってしまえば、あっという間だった」とINABAさんがツアーを評したけれども、本当にそのとおり。2025年の3月はなんだかわくわく・そわそわしていたら終わっていった。
そもそもATOMIC CHIHAUHAという(Pファンクの王で、Stevieを最初にメジャーで採用したジョージ・クリントン「Atomic Dog」
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を踏まえてのダジャレとみている)アルバムは、これまでの稲葉さんのプロダクトの中でも間違いなく史上最高級のボーカルワークで、かつ過去のINABA/SALASの作品とも少し違うアプローチだったのもあってかなり期待していたのだけれども、ライブにおいてもこの期待にしっかり応えてくれた。
会場の横浜BUNTAIは、「文化『体育館』」という名前が表すとおり、バスケットコートの周囲にスタンド席がついているようなものだった。5,000キャパとはにわかに信じがたいような、ギュッとしたつくり。
ステージは横に長い辺に沿って作られているため、客席との距離はかなり近い。私はこの日、ビーパ様お恵みの「S席」だったので全く期待していなかったのだけれど、アリーナのおそらく前から12,3列目くらいで、大変見やすかった。
ライブハウスだった名古屋初日とは異なり、入場するとステージにはツアーロゴの手のデザインが入った幕が下がっていた。おそらくは紗幕のような薄いものだったのだろう、開演と同時に色とりどりのライトがステージにあたると、幕にはメンバーのやたら楽しげなシルエットが大きく映し出される。タンバリンを持つ影、やたら両手をあげる影、踊りステップをふむ影。「これからはじまる時間は楽しくてワイワイとしたものですよ」と宣言されたかのようだった。
幕が開くと、あからさまに「『ディスコ』でございます!」というようなギンギラギンの銀テープがステージの後ろに垂れ下がり、ドラムセットの横から稲葉さんを直線的に照らすミニサイズのものも含めて、ミラーボールが大小5つも光るステージ。名古屋同様、INABA/SALASのロゴがかたどられたオブジェも吊られている。
まもなく、ここが5,000キャパの会場だということを忘れて、ただただ踊るための空間になった。「体育館」ゆえか、なんだか学園祭に来ていると勘違いするようなフレンドリーさ、まであったと思う。ギラギラとミラーボールが光り、ロゴはビカビカとライティングされ、後方の小さなライトもINABAとSALASのパートごとに光るという徹底ぶり。(逆にみなさんがお気づきだった「ロゴの名前部分がパートごとに光っていた」という点には私は気がつかなかった。)
また、ビジョンにもいろいろな演出があったようだが、ありがたいことに(?)、ステージを見るのに忙しくてほとんど見る暇がなかった。
全編を通して、稲葉さんは2時間の公演中、とにかくずっと動いていた。
かつてサマソニで見た時は足を大きく広げて腰を落とし、左右に揺れるしぐさが多かった気がしているけれども、今回は足は閉じた状態で左右に体を細かく振る動作が多かった。もちろん頭も振るし、飛んで跳ねる。マイクスタンドを豪快に担ぐ場面もあった。
ときおり中央のお立ち台に足をかけるようなときもあったけれども、目をギラつかせてしっかりと客席を射抜いていたし、その後舌を出してから歌うという強烈なビジュアルのインパクトを残し、終わるとニカッと楽しそうに笑う。
そう、その笑顔が印象的だった。
「Demolision Girl」間奏の、難しすぎてどのタイミングなのかわからなくなる「Hey!」のところを、会場の注目を引き寄せるだけ引き寄せて成功させた時には、なんだかイタズラ小僧のような、もしくは純粋にやったー!と喜んでいるかのようだった。
「U」のイントロ終わり、歌い出しの時にお立ち台にひょいと飛び乗る姿や、「Mujo Parade」で♪オドリマショ! と歌いながら裏拍で腕を上げつつくるくる回る姿、曲の締めのお立ち台からのハイジャンプ…そういった、当たり前のように見えて、やっぱりとんでもないステージングもまぶたに残っている。
中盤の「正面衝突」はもともと息継ぎの間が全くないにもかかわらず、その前のブルースハープ時点で死ぬほどロングに吹いちゃったりするので、「なぜ『ぜぇぜぇ』とならずにこの人は動きながら歌えているのだろう…」とあらためて人体の不思議を思うなどまでした。かつて「俺の生き様を見ろ」と言われてからは、ついどこかにストーリーを見つけるような見方をしてしまうのだが、この曲の歌唱のハードさをさも軽々とした風にこなすところがやはりカッコいい。
同じく中盤のアコースティックパートだった「Only Hello Part.1」はライブ用耳栓を外して聴いたところ、かなりマイクの出力というかエコーのかかり方がキツかったように思えたので、もうちょっと氏の素朴な息遣いが聴こえるような出音だったらよかったなとは思った。それにしても尋常じゃない響き方と奥行きだな、とも。個人的にはStevieのハイライトだと思っているアコースティックギターの美しさ、夕暮れのような照明の空気感とともに堪能した。
また、「DRIFT」のようにマイクスタンドを使うようなミディアムバラードでも、しなやかさと激情が伝わるような声の幅と体使いが見られた。名古屋レポでも書いたけれど、「Boku No Yume Wa」もこの表現がよく味わえた。加えて、INABA/SALASにおいては低音の魅力も存分に聴けるのがとてもいい。高低差に風邪をひくくらい高音ももちろんキマっていた。(「Overdrive」のロングシャウトもしかり)。
「みなさんの顔もよく見えますよ」と言って、客席を双眼鏡で見渡すかのように手を額にあてて眺めるしぐさ。
ああ、なんと見た目も精神も美しい人なんだろう。そんな人から「愛してます!」と言われた私たちは幸せものである。
ドラムのMattさんは2曲目の「U」のギアの入り方がとんでもなかった。
もともと生ドラム曲ではあるものの、あのキメの多いスネアのスキマに音を捩じ込むねじこむ。パワフルさもだけど、人を踊らせる肝を知ってる人のグルーヴはうねりまくっていた。INABA/SALASはデジタルビートが入っている曲が多いので、そのリズムの正確さみたいなところの判定はだいぶ厳しいはずなのだけれど、そこは余裕で、さらにウネリを発生させるからとにかく凄い。
記憶違いだったら恥ずかしいのだけれど、「KYONETSU」のCメロ部分なんかは常に「ドシャドシャ」言っていたし、ミディアムなはずの「Boku No Yume Wa」のラスト近くの「僕はほとんど君」のあたりの激しい手の入れ方など、何度か曲中でつい拍手と頭を振らざるをえない時があった。ドラムセット中央のカウベル、ウインドチャイム(見えなかったが音が鳴っていた)などの繊細なものももちろんやりつつ。
なお、1枚目のAL「CHUBBY GROOVE」はMattさんが飼っていた"豚さん"をヒントにジャケット写真を決めたそうで、稲葉さんはその豚さんのサイズの大きさを「こんのくらいだったっ!」と両手で表していた。なぜか豚さんのサイズを表す稲葉さんはこれで私の観測史上2度目。(ラジオ公録レポご参照)
nihaichi.hatenablog.com
また、豚さんは「健在」だそうです。何より。
今回、私の目線の延長線上に立っていたのはベースのArmandさんだった。名古屋ではほぼ位置の問題で見られなかったのでかなり嬉しい。サイドにステップしながら指弾き。これまたニカッと笑みを見せながら白いフレームのサングラスをかけているもんだから、「陽気」を体現していた。
スラップベースの迫力はもちろんだけれど、とにかくアクションも多い。長い足を広げて腰を沈め、ベースを身体の中央で縦に持ち直す…文字だけで伝わるのかはわからないが、とにかく体全体で弾く人だった。「Young Star」のような見せ場のあるところはもちろん、スタジオ盤からの化け方が素晴らしかった「Error Message」のカッコよさ(おとなしめの印象→ファンク感が前面に出て祝祭感。稲葉さんのボーカルも強かった。アウトロのアレンジ変えてたのもこの曲だった気がする。)跳ね方たるや。
そうそう、「Young Star」では稲葉さんと向かい合って、♪ジャッジャジャ…というリフに唐突に入る「みにょ〜ん」というような音に合わせて、2人で体を揺らし笑いあっていたり、真横に立ってサイドステップを踏んだりもしていた。
さらにメンバー紹介のときには、何故か「エア吹き矢を吹く人」となり、稲葉さんにフッと吹き放つフリを。迎える稲葉さんはなんと「エア日本刀」で矢をカキーンと返したかのようなアクション。ニヤリ。しかし、次に放たれたエア吹き矢からは逃れられず、首にエア食らってしまい、ウッ!と首を抑えながらエアうめくのでありました。
ね、たのしい。すごくたのしいです。
彼らリズム隊を見られただけでも大変に素晴らしい体験だった。
同じくメンバー紹介で稲葉さんに「こんなに小さかったのに!」と、出会った当時の背の高さをドラムライザーくらいの低さ(数十センチ)で表されたSamくんは、続く「同じステージに立ってるのも縁ですね。来てくれてありがとう。」という言葉に「こちらこそ」とさわやか&丁寧に答える。
「AISHI-AISARE」のイントロでのやたら低音ブースト+テクノ寄りの音だとか、「Rainbowの 『Gates of babylon』のイントロかな?宇宙ー!」感のある、ツマミ多用型にも対応する、キーボーディストとしては恐らく音色もスタイルも幅広すぎる楽曲たちを、見た目同様クールにいなしていた。やはり日本語で歌えるというのも今回のグローバルなバンドの中で重要な役割だったように思う。
初日の名古屋では熱気でメガネを曇らせながら熱演していたStevieは、この日のソロでいわゆる「喋るギター」(人がまるで喋っているように聞こえる)をかましてくれた。ワウで細かなニュアンスの調整を恐らくしていたのだろうとは思うが、やっぱりこの人は大胆なようでとても繊細な職人なんだと再認識。カッティングに徹することもあれば、ごく短いフレーズでも「勝負」をズギューン!と仕掛けてくる。というか、澄ました顔で色々細かくかましてくる。Samくんが同期を出しているのか、Stevieが奏でているのかがわからないような時が度々あったので今から誰か解説してもらえないか、の気分だった。
冒頭に書いたようにギターストラップが外れるアクシデントがあったものの、持ち替えることなく弾き切ったし、なんならバンドに合図をして綺麗にエンディングにもっていっていた。
突然稲葉さんを指して「INABAさーん!My Favorite!」と褒め称えたりもしたけれど、終始自分が前に出るというよりも、プロデューサー気質でバンドの全体を気にしていたように思う。ときおり、客席を煽るでもなく、じっと眺めるようにしていたのも印象的だった。
バンドではないのだけれど、バンドだった。
また、稲葉さんとStevieが互いに讃え合いながら肩に手をやったり、目線を合わせて笑ったりする姿はとても羨ましかった。
すべての曲が終わったときのこと。彼らとしても非常に"高まった"時間であったのだろうということを表すかのように、ドラムセットから降りたMattが、「ヨコハマー!」と叫んだかと思えば、急に「TROPHY」のチャントを歌い出す。
名残惜しい客席が、まるで"飼い主が帰ってきたときの犬"と同じようにそのチャントに飛び乗ると、今度はStevieがドラムスティックを手に、ドラムのタムを真横から叩きだす。誰だったかは忘れてしまったけれど、マラカスも持ち出されてたはず。
♪オーオーオーーオー!↑とますます声が乗る客席。
笑いながら「もうこれ止まんないな」とたぶん思っていたであろうボーカリスト氏は、スッと中央のお立ち台に立ち、客席と共にチャントに加わり、盛り上げながらもきれいにチャントを♪オーオーオーオーオー↓と終わらせていた。
ああ、こういう予想外に盛り上がっちゃう感じ。
最高だ。
「写真撮るって!」と、カメラマンさんがドラムセットの後ろにスタンバイしているのに、ステージ上はやはりまだ興奮気味のメンバーが話を聞かずに帰って行こうとするので、稲葉さんが英語で呼びかける場面もあった。
Instagramに載ってる写真はこの時のもの。「撮れた?撮れた?」と、なぜかいつもこの手の時に早口気味にカメラマンさんに聞く稲葉さんは、振り返って客席とスタッフに謝辞と拍手を送る。
「あっという間でした。INABA/SALASを忘れないでください!気をつけて帰ってください!」
名古屋公演で見た時の色々については、まったく跡形もないほどにきれいに修正されていて、やはりバンドの一体感はとてつもないレベルとなっていた。グルーヴィーという言葉だけで片付けたくはないけれど、ほかに言葉が思い浮かばない。尋常じゃないリズムの鬼たちがときに笑い合いながらこちらに休む暇を与えなかった。曲が終わると一瞬ほおっとして、瞬間バチバチと拍手をして…の繰り返しで、こちらが飲み物を飲むタイミングが難しかった。
唯一、この祝祭の日においてショックだったのは銀テープの特効が飛んだときのこと。自分より前方の観客達はなんと一斉に「下」を向いた。落ちたテープを取るために下を向き、拾い集めるのかあからさまにしゃがんでいた。時間にして数十秒だったのだろうと思うが、私とステージのメンバーだけが向き合っていると錯覚するほど、「誰もステージを見ていなかった」。空中に手を伸ばせば余裕で取れる位置なのに。
挙句、明らかに後ろから走り寄ってかき集める人の残像まで見えてしまった。
こんな光景をステージ上のメンバーが見てしまったのかと思うと、今思い出してもはらわたが煮え繰り返る。F ※これ以上の罵詈雑言を書きましたが自粛のため一部を残して消去いたしました。ご容赦ください。
閑話休題。
Stevie Salasの発案による、「さよならじゃなくて『ハロー』」というコンセプトは、間違いなく今後の私を救ってくれるし、実際に救われている気持ちになった方も多いと思う。
そういった意味でも、このINABA/SALASを見て聴いて体験することができた時間は、人生において実に大切なものだったと言える。
桜の木を見ながら歩いていた時、「Only Hello Part.2」がイヤホンから流れて、今はもういない私の大切な人たちが、何故かお茶の間を囲んで笑っている姿を想像して静かに涙が出た。
そして、アンコールでバンドを呼び出すために拍手をしていた時には、ふとこんなことを思った。twitterに書いたままに記す。
「このところ自分も周囲も具合が悪いことが多くって、闇が怖いなぁという夜もあるんですけれど、今後は同じ闇でもアンコールの時を思い出すようにすれば、明転して「ハロー」と言う気持ちになれるんじゃないかと、そんなことを思いながら拍手していた。」
2025年の3月は、しっかりと楽しかった。
アルバムのクオリティに感激して、ツアーのスタートを見守れて、友だちと話せて、最終日に「ハロー」と言えたのだから。
私は日頃、物販のハンドタオルを仕事場にも持って行って日常使いしている。
幻に終わった「The First Of Last Big Tour 2020」のハンドタオルはだいぶ色褪せてしまったけれど、今度からは真新しいタオル(しかも2柄!)を持って行けるから、また日常に彩りがができる。
それが今はとても嬉しい。